時を刻む - 原子時計を支える真空技術

時を刻む - 原子時計を支える真空技術

今日最も正確に時を刻む時計の中心部には、遊離原子を閉じ込めた真空槽が使われています。その時計とは原子時計で、パルスレーザーを利用して信じ難いほどの正確さで時を刻みます。
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さて、時間とは何でしょうか?物理学者も哲学者も、この質問に答えることはできません。しかし、この質問に答えることはできなくても、人は正確に時間を決めたり、計ったりしたがるものなのです。古代の日時計や、中世の機械時計の発明などを経て、時間の計測方法は発展してきました。その中でも特筆すべきは17世紀、数学者であり物理学者でもあるクリスティアーン・ホイヘンスによる振り子時計の製作です。彼はこの時計で初めて時間を時、分、秒に正確に分割することに成功したのです。以来、より精度を増した計測ツールが開発されつづけてきました。現在では、セシウム原子時計が国際単位系における秒の定義として採用されており、この時計の誤差は数千万年にわずか1秒です。

セシウム原子時計が世界の時を刻む

これらの最新の時計には、振り子や針がありません。その代わりにセシウム原子が時を「刻み」ます。まずセシウム原子を加熱し蒸発させ、ガス状になったセシウムを真空漕に取り込みます。真空にすることで、原子が互いにぶつからず、高いエネルギーを持ったまま移動できます。次に真空漕を通過するセシウム原子にマイクロ波を照射します。このマイクロ波がセシウム原子の共鳴周波数であった場合に、原子のエネルギー状態が変化し、高くなります。共鳴した原子は「励起」され、検出器がそれをカウントします。

エネルギー状態の高い原子の数が多くなるよう、マイクロ波の周波数を精密に調整します。この状態が確実となるのは9,192,631,770ヘルツです。つまり、1秒間に90億回以上振動するということです。逆に言えば、この回数振動するのにかかる時間が1秒ということになります。これが、国際単位系(SI)における秒の定義となっています。

レーザーでさらに精度を上げる

現在、セシウム原子時計の他にセシウム原子泉時計も正確な時間として利用されています。原子泉時計では、セシウム原子を真空漕上方に打ち上げ、噴水のように落ちてきたところにマイクロ波を照射します。この方法だと原子の共振周波数をより正確に判定できるため、精度はさらに上がります。 

ストロンチウムまたはイッテルビウム原子などを利用する光格子時計は、さらに精度が高くなります。この時計ではマイクロ波は利用せず、超高真空中で原子をレーザーで励起させます。1個の原子のエネルギー状態が変化するときの光の周波数が秒の長さの基準となります。周波数が高いほど、そして電子遷移の周期が早いほど、時間をより小さな間隔に分割することができ、それが精度の向上につながります。光格子時計は、セシウム原子時計よりも高速、高精度で時を「刻み」ます。この光格子時計が世界時の新たな基準となり、今「秒」として認識している時間の単位が再定義される日が来るかもしれません。しかしいずれのタイプの時計も、原子を閉じ込める真空槽が必要であることは共通です。つまりプロセスの違いはあれど、厳密に時を刻むために真空は重要な役割を果たしているのです。


目覚ましを掛けたり、電車の時刻を見たり、そんな日常の中で、原子時計が長らく私たちの時を刻んできたことを意識することは無いでしょう。原子時計を身近に感じられる良い例がGPSシステムです:私たちが意識しない間にも、カーナビなどのGPSシステムは、絶え間なく原子時計の測定した位置や時刻のデータを衛生から受信しています。3つの衛星からのデータを利用し、送受信間の差を計算することで、GPSシステムは自らの正確な位置を割り出します。わずか100万分の1秒の狂いでも、読み取り値は300メートルずれることになります。

原子時計は、高速データネットワークの同期にも不可欠です。長距離の光ファイバー通信ケーブルの場合、データの混乱を防止するために、送受信を精密に調整する必要があります。

超高精度な時間測定は、土地の測量や基礎研究でも必要とされています。最新世代の原子時計は、アインシュタインの相対性理論で予測した重力による「時空の遅れ」の測定に役立つほか、天文学で仮説となっている暗黒物質を突き止める一助となる可能性もあります。


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